リオデジャネイロオリンピックの女子マラソン代表候補の福士加代子選手(ワコール・33歳)も「マラソン30kmの壁」で苦しんだ時期がありました。

トップランナーでも距離の増減で苦しむことはよくある話です。特に距離を延ばす際は苦労を伴うものです。
今回は、マラソン30kmについて説明します。
マラソン30kmの壁とは
マラソンで30km付近になると、歩くようなスピードまでペースが落ち始め、脚が棒のように感覚がなくなってくることがあります。
これは、長い時間走り続けてきたことで、筋肉内のグリコーゲン(エネルギーとなる物質)が大きく減少することによる「ガス欠(エネルギー枯渇)」の状態になることです。
さらに、長時間にわたり全身の筋肉を動かし続けたことによる筋肉疲労も重なり疲労困憊で「身体が動かない」ということになります。
上記のように、マラソンを走っている時、ペースは問題なかったのにいきなり身体が重くなってペースが落ちてしまう時は、グリコーゲンの枯渇によるものなのです。
体内の蓄えられたグリコーゲンは、30kmあたりで枯渇すると科学的にも考えられてます。
これが、「30kmの壁」の原因と所以です。
このような状態が30~35km付近で起こることから30kmの壁と呼ばれています。

30kmの壁を乗り越える方法
私は、30kmの壁を乗り越えるには30km走をするしかないと思っています。
マラソンで完走を目指すために、レース後半に襲われる疲労状態を疑似体験しておくことが重要です。
経験したことのない強いストレスに対して抵抗するのは難しいことです。

30km走の具体的な効果は以下の3つあります。
1.よりエネルギーを溜め込める身体になる
エネルギー切れに近い状態を身体に経験させることで、グリコーゲンを取り込む力を高めることができます。20km程度だと枯渇させるには消費量が不十分の場合が多いです。
2.粘れる脚になる
30kmという長距離にわたり、関節や筋肉にかかる負荷を経験させることで、そのストレスへの耐性が身につきます。
3.距離に対する自信がつく
レースの前に30kmまで走り通せたことで、フルマラソンに対する自信がつきます。
距離感覚やペース感覚が磨かれる、精神力が鍛えられるといったメリットがあります。
アレンジ練習例
25~30キロを一度に走らずに切り分けて変化をつける方法もあります。
先に15~20キロをフル想定ペースで走るか、ゆっくりペースから徐々にスピードを上げて終盤にフル想定ペースまで持っていくビルドアップ走を行います。
その後で10キロか60分のジョギング、または60分間で交互にウオーキングとジョギングを繰り返すといった方法もあります。午前と夕方といったように時間を空けてもいいです。
目的は、30キロ耐えられる身体を作ることにあります。形を変えても同様の状態が作れれば問題ないわけですね。
30km走をするときの心構えと注意点
宇宙飛行士が出発前に宇宙でトレーニングすることはないですよね。
プールの水中で無重力みたいな状態をつくり出して訓練したり、シミュレーターで実際の操縦を模して訓練したりしている映像をよく見ます。
マラソンも実際に40キロを走ることがすなわち対策練習ということにはなりません。
適度な負荷で、複数回の練習を通して体をさいなむのです。やがて体はレースの30キロ地点に似たような疲弊した状態になります。
ケガなく安全に30キロ地点のような状態になって走り続ける。
40キロ走をしなくても、こうした手順でフルマラソンを走り切れる免疫力のようなものを備えていく。そこには練習メニューの組み立て方のコツがあります。

これまで30km走などのロング走を行ったことのない初心者の方は、次のことに注意しながら行って下さい。
1.ペースは気にせず、物足りないくらいのスピードで走る
長時間身体を動かすことに慣れるのが目的です。
ペースを意識する必要はなく、物足りないと感じるくらいゆっくりと走ります。
残り5kmを切って無理なくペースを上げられることができるようにします。
30kmはペースさえ気にしなければ、楽に走れるという感覚を持てると良いと思います。
2.事前の食事でしっかりエネルギー補給をする
30km走を行う前日の夕食は、いつもよりごはんを多めに食べます。
朝食は、消化しやすいようにゆっくり時間をかけて食べます。
ごはんや味噌汁の他に、目玉焼きや納豆でタンパク質、フルーツでビタミンを補給します。
走っている途中でも、喉の渇く前に水分を補給し、エネルギージェルなどで補食することを忘れないことです。
3.ストレッチで故障の予防をする
走る前には、肩、お尻、ひざの裏、ふくらはぎ、太もも前面などのストレッチを行います。
走った後も入浴後にストレッチやマッサージを行います。
シューズのひもは、後半に脚がむくんでくるので少しゆるめに結ぶと良いですよ!

例えばゴルフのショット、テニスのサーブ、バスケのフリースロー、あるいはフィギュアスケートの回転など、短い時間に集中して動き、結果が表れるものとは性格が異なるといえます。
より本番に近い形の練習をしなければと考えて、40キロ等の長い距離をレース設定に近いペースで走ることを繰り返していては、体にダメージを残し体力を消耗させてしまいます。
ケガのリスクを高める恐れもあります。長い距離を走り切った達成感は得られても、その練習がレースで発揮される力につながるかは疑問です。
今回のように、「30キロの壁」を克服するために、地道に、身体を慣れさせ、少しずつフルマラソン完走に向けて疑似体験を通して成長させることが重要になります。